「先生!どうしましょう、魂柱を倒してしまいました‼︎」
ある晩、生徒さんのお母様から動揺した声のお電話が...
先ほどサイズアップした新しいヴァイオリンを受け取って帰宅されたばかり。
調整に問題でもあったのだろうかと、ドキリとしました。
詳しく聞くと、新しいヴァイオリンではなく、魂柱が外れてしまったのは今まで使っていた楽器。
長期保管前にキレイにクリーニングしておこうとされたのですが、指板も丁寧に拭くために、弦を全て外したところ魂柱が倒れてしまった…ということでした。楽器の中では魂柱が転がってカラコロ音がしています。
ところで、魂柱とは何でしょうか?
魂の柱、という名前だけに、おそらく重要なパーツであろうという感じがします。
ヴァイオリンの表側にあるf字孔という穴から中を覗くと、中にお箸くらいの太さの木の棒が立ててあるのが見えます。これが魂柱です。
魂柱にはどんな役割があるのでしょうか?
ヴァイオリンの弦を弓で弾くと弦が振動し、それが表板、駒に伝わります。さらに振動は魂柱を通して裏板まで伝わり、楽器全体を共鳴させて豊かな音を作り出します。魂柱は楽器の振動を最大限に引き出せるよう、E線側の駒から少し下の位置に立てられます。少しずれただけでも、びっくりするほど音色を大きく左右します。
魂柱はニカワなどの接着剤で貼り付けられているわけではありません。
表板と裏板の間に絶妙なバランスで立てられ、張られた弦の圧力によりしっかりと固定されています。
(弦の張力は20kgにもなります)
複数の弦を一度に緩めるとそのバランスが緩み、魂柱の位置がずれたり、外れてしまうこともあるのです。
そのため弦を交換する時は、一本ずつ交換することが大切です。
また楽器に衝撃が加わったりしても、魂柱のずれ・はずれは起こります。
今回の生徒さんの弦の交換はいつも私がしていたため、こうした注意点は特にお話ししてはいませんでした。弦を全部外してお掃除されることはまるで想定していなかったので、このようなハプニングが起きてしまったわけです…普段からお伝えしておくべきだったかな、と反省しました。
楽器にかかる圧力を支える魂柱が倒れたままでは、楽器に悪影響があります。
翌日、ヴァイオリン工房で職人さんに丁寧に立て直していただきました。
魂柱を立てるためには特殊な工具を使います。
(魂柱には工具を差し込むための細長い切れ込みがあります)
皆さんも弦交換の際はご注意ください。
もし魂柱がずれたり倒れてしまった時は、できるだけ速やかにヴァイオリン工房で立て直してもらうことをお勧めします。
ヴァイオリンの魂柱。交換時に外した古いものです。
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